10. 万字線万字炭山駅

〈位置〉 終着駅

〈開業〉 大正3年11月11日(貨物駅)
    →大正13年9月1日(一般駅)
    →昭和53年4月5日(無人駅)
    →昭和60年4月1日(廃止)

〈乗車客数〉 6

〈概要〉

岩見沢市の南、志文町から幌向川沿いに東へ延びる万字線は、北海道炭鉱汽船(北炭)万字坑の石炭搬出を目的に大正3年に万字軽便線として建設され た。沿線にはかつて朝日鉱山・美流渡鉱山など十余りの炭鉱があったが、万字炭山駅はその最も奥まった場所にあり、道道を通って南へ山を越せば意外にもわず か7~8kmで夕張市に辿り着ける。開業から10年間は貨物のみの取扱いで、旅客の終着は隣の万字駅であった。大正13年に一般駅に昇格し、戦後にかけて 全国でも有数の優良炭産出地域として賑わったが、例にもれずエネルギー革命の波を受け、次々に沿線の炭鉱が閉山、昭和51年12月に万字鉱山が閉山してか らは、人口の流出に歯止めがかからなくなり、晩年は営業係数全国ワースト3に名を連ね、真っ先に一次廃止対象路線に指定された。これより前、昭和53年に は全線で貨物の取扱いが廃止され、朝日・万字・万字炭山の3駅が無人化されている。なお、"万字"の語源は、もともとこの地域の炭鉱を所有していた朝吹家 の定紋「卍」が由来という。
 石炭の積み出し駅であったため、構内は異常といえるほど広大だが、貨物取扱い廃止後は引込線などが全部整理されてしまったのか、配線は極めてシンプルで 片面使用の土盛りのホームが残るのみであった。晩年は1日5往復程度の運行で(下:北海道時刻表・昭和58年9月号)、単行運転の気動車は朝夕の通学便を 除くと終日ガラガラという有様だったようだ。





〈訪問記〉

廃線が間近いという噂を聞き、この際"乗っておかねば"という使命感(?)もあって昭和58年の夏頃に訪問の機会を得た。実際に廃止されたのは2年 後の春である。札幌から比較的近いので乗車プランは立てやすかった。気動車はすべて岩見沢始発着となっており、発車して間もなく一駅先の志文から万字線内 に入る。栗沢町に入ると急に山が迫るようになり、幌向川沿いの細長い谷間をゆっくりと東へ進んで行く。中間の駅はどれも窮屈そうな感じで、どことなく寂し げだ。45分かけて終点の万字炭山に到着。周囲を山に囲まれ、付近に民家らしきものは見当たらなかったと思うが、近くに古い炭鉱住宅跡が残っているという 記事をどこかで見た記憶がある。構内はものすごく広くてガランとしており、ホームに降り立つとかなり遠くに瀟洒な駅舎が見えた。なぜこんなに離れているの か不思議だったが、折り返し発車まで10分程度しかないのでとにかく走る。駅舎内もガランとしていたが、小さな出札口は健在で駅務員氏?が常駐している模 様。既に入場券の発売はなく、日付印字機も改札鋏も置いていないとのことであったが、硬券の簡易委託券があるというので1枚売ってもらった。買っていくの は私のようなマニアばかりだという。


線路は駅舎を通り過ぎてもまだ車止めがなく、坑道とおぼしきトンネルへと続いていた。構内に車庫などはないようだが、時刻表をよく見るとこの駅が1日の終着と始発になっているので、ひょっとして夜間はこんな寂しい駅に気動車が停まったままになっていたのだろうか。

 廃線後の状況については、例によって廃駅跡を探訪された方がたくさんおられるようなので、興味のある方は"万字炭山駅"などでネット検索をお勧めした い。 現在、ホーム・線路などは撤去されてしまったらしいが、駅舎だけは健在で、個人住宅?として利用されているとのことである。



〈万字炭山駅のきっぷ〉

普通入場券 30円乗入併用券(昭和50年発行)。”キップマニアの不思議な世界”「プレミアの付く条件」で 紹介したように、昭和48年から最低運賃区間の片乗を入場券に代用できることになったため、万字線では万字・万字炭山駅で30円券の後半から左のような乗 車券・入場券併用券が発売されるようになった。30円併用券には複数様式あり、左は比較的初期のもの。また、"白券"(専用券)も存在するが、残存枚数が 少ないため相場はかなり高めだ(昭和44~48年頃に発売されたもの)。併用券に関しては、日高三股駅長氏のHP(「秘境日高三股へようこそ!」)に詳しい研究・解説があるので、是非参照されたい。


普通入場券 60円乗入併用券(無日付・最終額面券)。昭和52年前後に乗車券類の地紋色の変更があったため、60円併用券にも青地紋(前期)のも のと赤地紋(後期)のものが存在する。(どちらかと言えば青地紋(前期)の方が稀少?) 万字炭山駅の赤地紋併用券が存在するかどうかは微妙だ。もしお持ちの方がおられましたら、是非ご一報下さい。


(簡)万字炭山駅発行の万字ゆき普通片道乗車券(昭和58年発行)。簡易委託券なので小児断線はなく、"ム"(無人駅)の記号が付けられている。廃止直前まで発売されていたので、それ程珍しいものではない。


〈万字炭山駅のスタンプ〉

万字炭山駅に備えられていた駅スタンプ。右は廃止間際に設置されたもので、左は「マニアからの寄贈」によるものという。